- Q 現在の研究テーマはなんですか。
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海洋エネルギーの利活用に向けた発電機やモーターといったデバイスの開発と、それに用いる超電導材料の応用研究、関連技術の開発を行っています。
- Q 研究に取り組み始めたきっかけを教えてください。
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- 学生の頃は物性物理学分野の研究をしていたのですが、博士号を得てポスドクとして研究に従事するうちに、学術的な面白さだけではなく、社会的にどのように貢献できるのか、具体的な応用までやらないと面白みがないだろうと考えるようになりました。私は材料に関わる研究に携わっているのですが、そこから得られた知見から、材料の特性を活かすことができると従来の社会的な概念を覆すことができると考えています。具体的な事例を挙げると、現代社会で幅広く使われている発電機やモーターは技術的に成熟しきっていて、原理的にこれ以上の性能改善は難しいと考えられるのですが、その内部で使用する磁性材料を超電導材料へ変更することで機器の性能を大幅に向上させることが可能です。モーターや発電機は社会に無くてはならないデバイスですから、その性能向上は社会に対して大きな影響を与えます。私は研究を通じてこのような理解に至り、研究成果によって社会的な貢献を果たすという明確な目的を得たことが現在につながっています。
- Q 研究の面白さややりがい、重要性を教えてください。
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研究者は誰もが同じではないかと思いますが「世界で初めてなにかを成す」ということに大きな意義を感じます。私たちの研究グループでは、国内の大学で初めて超電導材料を使ったモーターや発電機の技術開発を推進してきました。私が開発した高温超電導材料を強力な磁石に変える装置は、他の研究グループではまだ実現できていない唯一の技術を利用しています。従来の技術では超電導材料が強い磁場を発するようになるまでに時間と手間がかかり、高価な超電導電磁石を必要とするのですが、そのおかげで永久磁石や常伝導電磁石の数倍もの強い磁場を達成できます。私が研究成果から産みだした新しい手法を使えば高価な超電導電磁石を使うこと無く、かつ、それを使用した場合に匹敵する強い磁場を2秒で着磁することができます。現在までに永久磁石や常伝導電磁石を上回る強磁場を実用化できなかったため、そこまでの強磁場を使ったモーターや発電機を始めとする機器はまだ存在していないのですが、今後の研究の進展によって、従来の技術の中で性能を上げるのか、それとも新しい概念のデバイスが生まれるのか、いずれにせよ社会に対する貢献は計り知れないと思っています。
- Q 研究によって、どのような社会的インパクトが期待できますか。
短期的なもの(1~2年後程度)と長期的なもの(~10年後)を教えてください。
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短期的なものとして、洋上風力発電への応用に大きな可能性があります。日本では現在、政府主導で洋上風力発電の実用化を進めつつあります。洋上風力発電機の上部にある重いモーターや歯車の部分を超電導技術によって軽量化することで、風車タワーの上部が重くて不安定になりがちな洋上風車の安定性が向上します。この効果は特に浮体式の洋上風力発電機において有効です。また船舶の推進装置など、より大きな出力が求められる分野でもこの技術の利点を発揮できると考えています。
一方、洋上風力発電の実用化の先を見据えた長期的な展望として潮流発電の開発を行っています。潮流発電のメリットは、発電量の予測が可能であることです。太陽光や風力に頼った発電は天候や気候によって発電量が変わり、その正確な予測は困難です。しかし潮流は太陽、地球と月の間の重力に基づいて生じるため、それらの位置関係から発電量の予測が可能です。台風が襲来しても発電に影響がほとんどないことを含め、天候や気候に左右されないという特徴は他の再生可能エネルギーと比べて大きなメリットで、今後の実用化に期待が持てます。 - Q 研究は、SDGsのどの項目に貢献できますか。
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- 「目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「目標14:海の豊かさをまもろう」です。海を資源として活用するという視点で、海洋エネルギーを効率的に利用する技術の開発は重要です。私たちはこれらの取り組みを通じて、持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。
- Q 東京海洋大学で研究する意義
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- 超電導技術は大きなエネルギーを扱う場面ほど、そのメリットは大きくなるため、海洋分野と高い親和性を持ちます。海水の密度は空気の840倍と高く、海洋は大きなエネルギーを生み出すことが可能です。これを利用する潮流発電は東京海洋大学だからこそふさわしく、また実現可能なテーマだと考えています。
- Q 研究を行っている上で大切にしていることやポリシー
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- 私が研究を行っている上で大切にしているのは「転んでもただでは起きない」という姿勢です。研究というものは多くの場合、思った通りには進まないものです。私たちの研究は公的資金や民間からの資金を用いて進められており、特に装置を使用する研究では多くの費用がかかります。また、実作業に関わる手間と時間も多く必要です。それらを無駄にしないために、失敗してもその状況で得られるものはないかということを考えて次につなげています。それと同じくらい大事なことが、研究は趣味ではないということをちゃんと自覚しているかどうかということです。我々の責務として、最終的に社会に貢献することを目指す。人類のために研究を成しているという意識を持って、自分自身の研究について、社会に属している人間の一人として真剣に取り組む姿勢が大切だと考えています。
- 井田徹哉教授のOA論文はこちら
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論文標題: Pulse Field Magnetization of GdBCO without Rapid Decrease in Magnetic Flux Density
著者?共著者:Tetsuya Ida, Hayato Imamichi, Mizuki Tsuchiya, Nagisa Kawasumi, Kazushi Yanagi and Mitsuru Izumi
掲載誌:IEEE Transactions on Applied Superconductivity 発行年月:2024年5月
DOI: 10.1109/TASC.2024.3369572