- Q 現在の研究テーマはなんですか。
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大きく分けて3つのテーマがあります。
1. 都市貨物交通のシミュレーション
コンピュータ上に都市を再現し、その中で物と自動車の動きを再現するシミュレーターを作成しています。例えば都心と郊外では輸送時間や配送量が異なります。そういった環境に応じた違いを現実に即した形で再現するモデルを開発し、シミュレーターに使用しています。このようなシミュレーターを用いて、都市貨物に関連する様々な施策を分析することができます。
2. 物流と土地利用に関する研究
Eコマースの普及に関連して、物流がますますオンデマンドになり、在庫を保管するための従来型の物流施設(倉庫)だけではなく、積み替え、荷物さばき、パッケージング等、物流における様々な作業を行うための巨大な物流施設があらゆる都市で増えています。これは世界的な現象ですが、郊外部において無秩序な開発が行われる場合もあり、配送距離の増加に伴う、交通渋滞の悪化、配送コストの増加、排出ガスといった問題につながる可能性が懸念されます。このような物流土地利用の変化と、それにともなう社会的?環境的な影響を分析しています。
3. Eコマースと端末配送
Eコマースの普及により宅配需要が急増していますが、そもそも街づくりはそういうケースを想定していない場合がほとんどで、住宅地を配送トラックが走りまわり、荷卸し用の駐車スペースがないところで一時停止しているような状況が生まれています。例えば、アメリカのある都市では、駐車違反しても罰金を科されるだけで免停にはならないので、配送事業者は罰金を配送コストの一部と考え、当たり前のように二重駐車をしています。また、ある都市では、駐車場にコンテナを設置して、そこを拠点に端末配送しています。日本では、密度の高いビジネスエリア等では端末の営業所から手押し車で宅配している場合が多いです。そういった背景もあり、私たちは、Eコマース需要を分析するモデルを開発したり、端末配送のあり方について国際的な事例を分析したりしています。また、前述のシミュレーターを用いて、配送ロボットや電気自動車を使った端末配送手段の効果や課題も調べようと取り組んでいます。
以上の3つは独立しているわけではなく、都市の物流というテーマの中で密接に関連しています。比較的新しい分野ですが、急成長にともない多くの課題も出てきており、公益?公共の視点から研究をしています。 - Q 研究に取り組み始めたきっかけを教えてください。
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物流に焦点を当てた研究に取り組むようになる前は、主に東南アジアにおける国際援助の現場で交通計画の業務に従事していました。そこで物流が都市の形成や経済へ与える影響、物流に関連した課題を目の当たりにして、面白いなと思ったことがきっかけです。その後、本格的に都市物流の分野での研究を始めるために、イリノイ大学の都市計画?政策科のPhDプログラムに参加し、PhD取得後はシンガポールにあるマサチューセッツ工科大学の研究所の研究員となりました。
- Q 研究の面白さややりがい、大変な点を教えてください。
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- 難しい課題を解決するために研究を積み重ねていくのは大変ですが、それが社会的?国際的に重要な課題であるということがやりがいであり、面白さにもつながっています。
- Q 研究によって、どのような社会的インパクトが期待できますか。
短期的なもの(1?2年後程度)と長期的なもの(?10年後)を教えてください。
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短期的には、一例として、研究で得られた知見を身近な政策検討の場で生かすということがあります。いま首都圏の地方公共団体と国が東京都市圏計画協議会という場において、物流の調査の実施と政策提言を行うプロジェクトを実施していますが、私も関連する委員会に参加し、助言をしています。そこで都市物流に関する調査をどのようにデザイン?実施し、集めたデータをどのように分析すればいいのか助言をする際に、自身の過去の研究や、学生が実施中の研究から得られた知見が大いに役に立ちます。
長期的には、論文やハンドブックの国際的な出版を通じて、都市貨物に関する新たな知見を社会に提供することで、それらがより良い形で都市計画を行なうことに役立ちます。国際機関の専門家委員会での提言を通じて、様々な国に対して影響力のあるガイドライン作成に関わることもあります。様々な経路を通じて、よりよい都市の形成に向けた貢献ができると考えています。 - Q 研究は、SDGsのどの項目に貢献できますか。
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- 「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「目標11:住み続けられるまちづくりを」、排ガスを減らすことで「目標13:気候変動に具体的な対策を」。
- Q 東京海洋大学で研究する意義はなんでしょうか。
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- 都市の物流に船舶はあまり関わりませんが、物流?データサイエンス分野において専門知識を持つ研究者が集まっていますし、優秀でやる気のある学生はたくさんいます。そういう意味ではとても良い環境だと感じています。
- Q 研究を行う上で大切にしていることやポリシーを教えてください。
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- 世の中の役に立つ知見を生み出すことです。テクノロジーの発展にともない、都市での物流に関する政策や計画をどうすれば良いのか考えることは、これからますます重要になります。
- 坂井孝典准教授のOA論文はこちら
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論文標題:Locations of logistics facilities for e-commerce: a case of the Tokyo Metropolitan Area
著者?共著者:Takanori Sakai, Kohei Santo, Shinya Tanaka, Tetsuro Hyodo
掲載誌:Research in Transportation Business & Management
発行年月:2024年8月
DOI:10.1016/j.rtbm.2024.101174