- Q 現在の研究テーマはなんですか。
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私の研究テーマは洋上風力発電事業における船舶の出航可否の長期予測することです。1週間から2週間前に、特定の船舶が安全に出航できるかどうかを予測することが目的としています。
洋上風力発電所の建設や維持管理には各種専門船が不可欠であり、特にCTV (Crew Transfer Vessel:人員輸送船) は作業員や資材を洋上に運ぶ重要な役割を担っています。作業員が洋上風力タワーに移乗する際、CTVの船首を洋上風力タワーにエンジンの推進力で押し当て、船体を安定させる必要がありますが、波浪や摩擦力の影響で大きな動揺が発生します。そのため、波浪が高い状況ではCTVの出航が中止される場合もあります。長期的な出港可否を予測することで、事業の安全性を確保するとともに、人員配置や工程スケジュールの最適化、さらには安定的な電源供給にも寄与することが期待されます。現在、出航可否の判断は気象データに基づいた作業関係者の経験則に依存しています。しかし、波浪条件よりも船体動揺が直接的に影響を及ぼすことから、動揺量に基づいた出航可否の判断の方がより正確であると考えられます。そのため、このテーマに取り組んでいます。 - Q 研究に取り組みはじめたきっかけを教えてください。
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これまで海岸工学を専門として、主に沿岸域の防災?減災に関する研究に取り組んできました。しかし、海洋資源エネルギー学部門に所属するにあたり、学科の方向性に合致した研究も取り組む必要があると考えていました。そんな中、ある洋上風力発電の実証実験において実施された、CTVの接舷可否に関する実験データを入手する機会を得ました。データを扱う中で興味が湧き、これまで培ってきたノウハウを活用すれば面白い研究ができるのではないかと感じたことが、本研究に取り組むきっかけとなりました。
- Q 研究の面白さやりがい、重要性を教えてください。
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- 政府はすでに2050年のカーボンニュートラルの達成に向けて宣言をしました。その中で日本は洋上風力発電分野に関して少し遅れているのですが、今後再生可能エネルギーの主力として期待されている分野でもあります。自分の研究が少しでも貢献できると思うと、そこに大きなやりがいを感じていますし、数年間の共同研究を通して業界とのつながりが深まり、この分野で共に成長していることを実感しています。
- Q 研究の大変な点、課題を教えてください。
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日本では洋上風力発電の実用化が遅れており、稼働中の発電サイトが少ないため、CTV船のデータ取得が困難な状況です。その解決策として、本学の実習艇「ひよどり」を活用し、小型CTVに類似するトン数の船でデータを収集しています。
- Q 研究によって、どのような社会的インパクトが期待できますか。
短期的なもの(1?2年後程度)と長期的なもの(?10年後)を教えてください。
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?短期的なインパクト
CTVの出航可否を予測する技術が実用化されれば、洋上風力発電の運用において、より安全かつ効率的なスケジュール管理が可能となり、運営コストの削減や作業員の安全確保に貢献できます。また気象?海象条件に左右される現在の出航判断が、客観的かつ精度の高いデータに基づくものとなるため、計画的な運用が期待できます。
?長期的なインパクト
10年先を見据えると、この技術はさらに多くの洋上風力発電施設で採用され、日本の再生可能エネルギー事業における標準的な技術基盤となることを期待されます。さらに他の海洋事業にも応用され、海上輸送や海洋工事の安全性と効率性の向上にも寄与することが考えられます。 - Q 研究は、SDGsのどの目標に貢献できますか。
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目標7 「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
洋上風力発電の安全性と効率性を向上させることで再生可能エネルギーの供給を促進し、クリーンエネルギーの普及に貢献できます。
目標13 「気候変動に具体的な対策を」
気候変動対策としての再生可能エネルギーの推進に寄与し、脱炭素化やカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みをサポートします。 - Q 東京海洋大学で研究する意義はなんでしょうか。
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東京海洋大学は海洋分野に特化した大学であり、他大学にはない海洋に関する専門知識や研究インフラが充実している点が大きな特徴です。例えば洋上風力発電に関する研究においては、大学が小型の実習艇から大型の練習船まで保有し、実海域でのデータ収集や実験が可能になります。また大学内には海洋資源、海洋工学、環境保全など幅広い分野の専門家が在籍しており、他分野との連携が取りやすいことも魅力です。
さらに東京海洋大学は海洋資源の持続可能な利用や環境保全といった課題に積極的に取り組んでおり、私の研究テーマである洋上風力発電の出航可否予測システムの開発は、大学のミッションとも合致しています。こうした学術的なバックグラウンドと充実した設備環境が整っていることから、東京海洋大学で研究を行う意義は非常に大きいと感じています。 - Q 研究を行う上で、 大切にしていることやポリシーを教えてください。
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- 私が大切にしているのは「現場主義」です。これまで取り組んできた海岸工学に関する研究も同様ですが、船舶の動揺についても現場の感覚が非常に重要だと考えています。そのため、研究を実施する際には、学生と共に実際の現場に赴き、環境や条件を体感しながらデータを収集することを心がけています。これにより、研究の信頼性をより高めることができると考えています。もう一つのポリシーは、研究の結果が社会に与える影響を常に意識することです。洋上風力発電は、再生可能エネルギーの普及や地球温暖化対策に大きく貢献できる分野です。私の研究が少しでもこの分野の発展に役立つことで、社会に貢献できると信じ、その想いを胸に取り組んでいます。
- 吴 連慧助教のOA論文はこちら
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論文標題:Evaluation of Accessibility to Offshore Wind Turbines by Crew Transfer Vessels Using Artificial Neural Network?ニューラルネットワークを用いた作業員輸送船による洋上風力タービンへのアクセス可能性の評価
著者?共著者:Lianhui WU, Tsuyoshi IKEYA, Daisuke INAZU, Akio OKAYASU, Yukinari FUKUMOTO, Koya SATO
掲載誌:Journal of Japan Society of Civil Engineers, Ser. B3 (Ocean Engineering)
発行年月:2022年11月
DOI:10.2208/jscejoe.78.2_I_1