- Q 現在の研究テーマはなんですか。
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- 研究テーマは魚類の粘膜免疫機構と、それを利用した新しいワクチンの開発です。養殖魚は毎年全体の生産額の5パーセントくらいを病気でロスしています。ワクチンを打つと死亡による減少を予防できるのですが、養殖場にいる数万尾規模の魚に一尾ずつ注射する必要があります。それには非常に労力とコストがかかり、単価の安い魚に注射するのは現実的ではありません。 この課題を解決するため、魚をワクチン液に浸すだけで免疫ができる浸漬ワクチンの研究を進めています。このワクチンは現状では限られた病気にしか有効ではありませんが、エラから取り込まれていることがわかっています。そのシステムを解明することで、全ての病気に対応できる浸漬ワクチンの開発を目指しています。
- Q 研究に取り組みはじめたきっかけを教えてください。
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腾博会官网9885生のときにDNAワクチンの研究をしていたのですが、博士号を取得して卒業する際になにか新しいことに挑戦したいと思い、浸漬ワクチンに興味を持ちました。ワクチンに浸けるだけで効くという理由がわからなくて、なぜそうなるのかを解明したいと思ったのがきっかけです。
- Q 研究の面白さややりがいを教えてください。
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- 免疫学は哺乳類で進展してきて、それが常識となっています。ところが魚には、魚にしかないユニークな免疫機構があります。よく考えてみれば体温も違うし、エラ呼吸しているし、違うのは当然です。そういったいままでの常識と違う、新しいことが見つかってくることに面白さを感じます。 また私たちは研究成果を水産業に活かしたいと考えているため、現場の人たちと話す機会がよくあります。エラの細胞を利用した浸漬ワクチンの研究テーマについては、そういった現場の方からも実用化への期待を強く感じることができます。それは大きなモチベーションになっています。
- Q 研究の大変な点を教えてください。
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モデルになる生物がいないことです。人とマウスはDNAレベルで90%くらいの相同性があります。哺乳類はその程度の差異なのですが、ブリと見た目が少し似ているニジマスは、遺伝子レベルで比較すると相同性が30%~50%程度しかありません。そうなると、一種類の魚を研究して、その魚をモデルにすることができない。魚種ごとにツールやデータをつくることからはじめる必要があります。それが大変なことでもあり、やりがいと言えるかもしれません。
- Q 研究によって、どのような社会的インパクトが期待できますか。
長期的なもの(~10年後)と短期的なもの(1~2年後程度)を教えてください。
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長期的には、浸漬ワクチンを活用することで、いままでワクチンを打てなかった魚にも免疫を付与できるようになります。これによって水産業の発展に寄与するとともに、抗生物質の使用量を減らすことで、薬剤耐性問題の軽減にもつながります。
短期的には、そういう夢を持った研究ができる。私たちの研究室には毎年多くの学生が入室してきますが、自分のアイディアを楽しみながら表現できる研究の場として、水産の裾野を広げることに寄与できているのでなないかと思っています。 - Q 研究は、SDGsのどの目標に貢献できますか。
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「目標2:飢餓をゼロに」、「目標14:海の豊かさを守ろう」といった目標に貢献します。
ワクチンの普及で養殖魚の生産性を高め、抗生物質使用量を削減することにより、安心安全な魚を供給できると考えています。 - Q 東京海洋大学で研究する意義について教えてください。
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- 本学には、海洋や水産分野に特化した研究者が集まっており、切磋琢磨ができる環境です。また、学生たちは、海や海洋生物に興味を持って入学しているため、研究に対するモチベーションが非常に高く、クオリティも高いです。学生の熱意に刺激を受けながら、ハイクオリティな研究をできるのが本学の強みだと感じます。
- Q 研究を行う上で大切にしていることやポリシーはなんですか?
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- 研究において大切にしているのは「どこまで正直になれるか」ということです。 不正や不正確な結果を防ぐためにも、研究者倫理を高く意識しています。どんなに些細な発見でも、正確であることが最も重要だと思っています。
- 加藤豪司准教授のOA論文はこちら
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論文標題:A Novel Antigen-Sampling Cell in the Teleost Gill Epithelium With the Potential for Direct Antigen Presentation in Mucosal Tissue
著者?共著者:Goshi Kato, Haruya Miyazawa, Yumiko Nakayama, Yuki Ikari, Hidehiro Kondo, Takuya Yamaguchi, Motohiko Sano, Uwe Fischer.
掲載誌:Frontiers in Immunology 発行年月:2018年9月 DOI:doi.org/10.3389/fimmu.2018.02116